日系企業が最も頭を悩ませ、かつ訴訟リスクが極めて高い「解雇・退職・労働争議」に関する詳細コンテンツ |
1. はじめに:台湾は日本以上の「解雇困難」な国である
台湾でビジネスを展開する際、最も慎重にならなければならないのが労働契約の終了です。
台湾の労働者は権利意識が非常に高く、解雇に納得がいかない場合は即座に労働局へ通報し、調停や訴訟に発展するケースが多々あります。
特に「労働事件法」の施行以降、裁判のスピードが早まり、企業側が不利な立場に置かれやすくなっています。
本記事では、法的トラブルを回避するための「出口戦略」を解説します。
2. 解雇の正当性:労働基準法第11条と第12条の使い分け
台湾で解雇を行うには、労働基準法に定められた明確な理由が必要です。
大きく分けて「会社都合(11条)」と「労働者過失(12条)」の2種類があります。
第11条(経済的・経営的理由による解雇):
事業の縮小、休業、業務の性質変更による人員整理など。
「労働者がその職務に堪えられない(適任ではない)」場合もここに含まれます。
義務: 解雇予告、解雇予告手当の支払い、および「退職金(資遣費)」の支払いが必要です。
第12条(労働者の重大な過失による解雇):
経歴の詐称、暴力行為、労働契約の重大な違反、無断欠勤(連続3日または月間6日以上)など。
義務: 解雇予告や退職金の支払いは不要ですが、立証責任が非常に重く、日系企業が安易に適用すると不当解雇として訴えられるリスクが高い項目です。
3. 【実務】退職金(資遣費)の計算方法:新制と旧制
台湾の退職金(資遣費)は、入社時期によって計算方法が異なりますが、現在は「新制(2005年以降)」が主流です。
新制(労退新制)の計算式:
勤続1年につき「0.5ヶ月分」の給与を支給。
最大で「6ヶ月分」の給与が上限となります。
勤続年数が1年に満たない場合は、月数・日数で按分計算します。
平均賃金の定義: 解雇直前6ヶ月間の平均賃金(残業代や諸手当を含む総額)を基に計算するため、基本給だけで算出しないよう注意が必要です。
4. 解雇予告期間と労働局への報告義務
解雇を行う際には、勤続年数に応じた「予告」が必要です。
予告期間:
3ヶ月以上1年未満:10日前
1年以上3年未満:20日前
3年以上:30日前
謀職假(求職休暇): 予告期間中、従業員は転職活動のために「週に2日以内」の有給休暇を取得する権利があります。
資遣通報(解雇通報): 解雇日の10日前までに、管轄の労働局に対してオンライン等で報告する義務があります。これを怠ると罰金の対象となります。
5. 「労働事件法」が企業に与えるインパクト
2020年に施行された「*労働事件法」により、以下の点が企業側の大きなリスクとなっています。
*台湾の労働事件法とは?
- 労働調解は原則として3回以内に終結し、申請日から30日以内に第一回調解期日が指定され、3か月以内に終結することが定められています。
- 調停・裁判期間中の解雇制限により、企業は当該従業員を解雇することができないとされています。
- 労働者保護の観点から、裁判が終了するまでは従業員を解雇できない
- このように、労働者保護の観点が強い法律で、企業は社内管理書類の徹底と、法令の定期的な確認、従業員との信頼関係を構築に注意する必要があります。
6. 労働争議を未然に防ぐ「合意退職」のすすめ
一方的な解雇(資遣)は、行政処分の対象になったり、会社名が公表されたりするリスクを伴います。そのため、多くの日系企業では「合意退職(合意終止労働契約)」を選択します。
合意退職のポイント:
法定の退職金(資遣費)に、数ヶ月分の「加算金(慰労金)」を上乗せして提示する。
双方が「今後、一切の民事・刑事・行政上の請求を行わない」旨を明記した合意書を締結する。
無理に退職を強要すると「強要罪」やハラスメントとみなされるため、面談の記録を正確に残す。
7. まとめ:解雇は最後の手段として慎重に
台湾での解雇は、手続きのわずかな不備が大きな経営リスクに直結します。
業績不振による解雇であれば、まずは「配置転換」などの努力を尽くしたか?
能力不足であれば、改善の機会(指導記録)を与えたか?
これら「解雇回避努力」の証拠が、いざ争いになった際の企業の盾となります。



