労務管理は専門家集団の弊社にお任せください 
 
 
 

7月1日施行:台湾「職安法」職場いじめ防止新制度の解説

7月1日より、台湾で『職業安全衛生法(職安法)』に基づく「職場いじめ防止新制度」が正式にスタートします。

ネット上では「これからは退勤後にLINEを送るだけで職場いじめになるのか?」

「上司が成果(ノルマ)を要求するのも職場いじめに該当するのか?」

といった疑問や懸念が広がっています。

これらの疑問に対し、労働部(日本の厚生労働省に相当)は関連する細則や支援施策を公表し、その「判断基準」を解説しました。

違法に該当するかどうかは、個別ケースごとに「業務執行上の必要性」や「合理性」などの要件を満たしているかを慎重に検証する必要があります。

 

本文目次

  1. ネットの噂「退勤後のメッセージ送信は職場いじめか?」鍵は必要性と合理性

  2. 職場いじめが成立する「5大要件」

  3. 労働部が公告した「職場いじめ防止」新制度の2つの細則(子法)

  4. 企業が防止体制を構築するための「6つの支援施策」

 
 

1. ネットの噂「退勤後のメッセージ送信は職場いじめか?」鍵は必要性と合理性

多くの企業のHR(人事)や労働者が、新制度の施行後に実務上直面するであろう「厄介な状況」について懸念を抱いています。

労働部の記者会見で挙げられた以下の具体例が注目を集めています。

「上司が退勤後にLINEで仕事を指示し、さらに頻繁に返信を求める行為は、職場いじめを構成するか?」

労働部は記者会見にて、職場いじめの認定には主に5つの要件

・業務執行中であるか

・事業単位の職員間で発生しているか

・業務上の必要性および合理性を欠いているか

・持続性があるか

・労働者の心身の健康に危害を及ぼしているか

があると回答しました。

 

したがって、単に「退勤後にメッセージを送ること」自体が必ずしも職場いじめになるわけではなく、個別の事案ごとに「業務上の必要性」と「合理性」を満たしているかを検証する必要があります。

 

実務における判断基準

労働部職業安全衛生署(職安署)の職業衛生健康組・副組長である彭鳳美氏は次のように述べています。

「退勤後に上司がメッセージアプリ等を通じて業務を指示し、一定の期限内に完了するよう求める行為は、原則として業務執行の範囲内とみなされます。

しかし、それが職場いじめに該当するかどうかは、指示された仕事の内容が合理的であるか、また特定の従業員に対して意図的に行われたものであるかをさらに精査する必要があります」

 

実務上で最も議論が起きやすいのが「業務上の必要性および合理性」の判断です。

  • 合理的な範囲内の業務指導、業績(ノルマ)の要求、業務の割り振りについては、たとえ従業員本人の受け止め方が良くなかったとしても、それだけで職場いじめと認定されることはありません。

  • 上司が法律に基づいて管理権限を行使する場合、正当な目的と合理性があれば、職場いじめの範囲には含まれません。

 

記者会見をサポートした瑋燁法律事務所の翁瑋(ウォン・ウェイ)弁護士は、実務上のポイントとして以下のように指摘しています。

「実務上では、該当事案に『緊急性』があるか、また従業員に『即時の返信』を求めているかが観察されます。

例えば、上司が単に業務連絡を残し、『出勤後に処理すればよい』と指示している場合はトラブルになりにくいです。

しかし、緊急性のない業務について、電話やメッセージで何度も催促し、『今すぐ対応すること』を強要する場合は、紛争リスクが高まります」

一部の行為が直ちに職場いじめを構成しないとしても、管理上の高リスク行為になり得ます。

企業は人事部門を通じて社内研修を実施し、よくある争点事例を整理して管理職に周知することで、将来的な申立リスクを減らすべきです。

 

 

【2026最新】台湾「労働安全衛生法」改正の重要ポイントと企業が負う法的責任

 

 

 2. 職場いじめが成立する「5大要件」

 

多くの管理職や人事担当者から

『声を少し大きくしただけ』

『仕事を少し多く割り振っただけ』

で職場いじめとして訴えられてしまうのか?

あるいは主観的に不快だと感じた行為はすべて違法になるのか?という質問が寄せられています。

労働部は、職場いじめの認定は個人の主観的な感覚だけで決まるものではないと強調しています。

新法の規定に基づき、以下の「5大要件」をすべて同時に満たし、かつ調査手続きを経た上でのみ、職場いじめとして認定されます。

 

職場いじめの5大要件(すべて必須)

  1. 労働場所において、業務執行中に発生したものであるか?

  2. 行為者(いじめを行う側)が、その事業単位(企業)の内部の人間であるか?

  3. 行為の内容が、業務上の必要性および合理性を超えているか?

  4. 持続性(繰り返されていること)があるか?

  5. 労働者の心身の健康に具体的な危害(健康被害など)を及ぼしているか?

 

労働部は以前のプレスリリースでも、「どれか一つの要件だけでは職場いじめには該当せず、5つの要件すべてが同時に合致していることが必要不可欠である」と説明しています。

 

3. 労働部が公告した「職場いじめ防止」新制度の2つの細則(子法)

 

労働部は、職業安全衛生の予防は、機械設備や作業環境の安全確保にとどまらず、労働者のメンタルヘルスの保護も含むものであると述べています。

職場いじめ防止の法制化を進める目的は、明確な制度と規範を確立することで、企業に準拠すべき基準を提供し、労働者に適切な申立ルートを提供することです。

これにより、事案が発生した際に早期介入して衝突の拡大を防ぎ、良好な職場文化を築くことができます。

 

今回公告された2つの細則(子法)は以下の通りです。

①『職場いじめ防止措置準則』

新制度運用の重要な拠り所となるもので、職場いじめの認定原則に加え、申立の受理、協調(メディエーション)、調査委員会の構成、利益相反の回避、調査決定、不服申し立て、および救済措置などのプロセスを明確に規定しています。

事業単位の規模に関わらず、職場いじめの申立を認知または受理した場合、事業主は法律に従って防止メカニズムを起動しなければなりません。

規模が大きい企業ほど、より包括的な防止制度と処理手続きの構築が義務付けられます。

 

②『地方主管機關受理最高負責人職場霸凌事件申訴處理辦法』

もし被申立人(いじめの疑いがある人物)が「事業単位の最高責任者(社長や総経理など)」である場合に対応するための法律です。

地方の主管機関(労働局など)が直接申立を受理し、調査を行う仕組みを構築しました。

外部の公権力を介入させることで、企業内部での調査による「利益相反」や「プロセスの不均衡」を防ぎ、案件処理の客観性、公正性、および社会的信頼性を高めます。

 

実務における「協調(メディエーション)メカニズム」の設計

労働部は、職場いじめの調査や処理プロセスはもちろん重要ですが、実務上、疑い段階にある事案の多くは「コミュニケーション不足」や「認識のギャップ」に起因すると説明しています。

正式な調査プロセスは時間やリソースがかかり、当事者の精神的負担も増やすため、制度設計の中に「協調メカニズム」が組み込まれました。

調査期間中、申立人の意向に基づき、適切なコーディネーター(仲介者)が双方の意思疎通や解決策の模索を支援します。

もし申立人が協調プロセスや結果に満足できない場合は、いつでも協調を中止し、雇用主(企業)による調査プロセスを継続させることができます。

これにより、労働者の権利保護と企業の紛争解決における柔軟性の双方が担保されます。

 

 4. 企業が防止体制を構築するための「6つの支援施策」

 

労働部は、特に中小企業がスムーズに新制度に対応できるよう、以下のサポート措置を並行して推進します。

 

  1. 「職場いじめ防止措置指導マニュアル」の配布

    • 職場いじめの認定原則、防止措置、申立、調査・協調プロセス、不服申し立てに関する実務上のアドバイスを提供。あわせて企業向けの規則テンプレートや各種書式を提供します。

  2. 教育訓練(研修)の強化

    • デジタル学習教材の制作を進め、事業主、管理職、内部調査担当者、一般労働者向けにオンライン学習リソースを提供。7月からは地方自治体や労働検査機関と連携し、研修の規模を拡大します。

  3. 「職場いじめ調査専門家データベース」の構築

    • 法律、心理、人事等の専門知識や実務経験を持つ外部の専門家をリスト化。企業が事案調査の際に外部の専門家を起用しやすくし、調査の質と公信力を高めます。

  4. 「職場いじめ通報システム」の構築

    • 企業が申立を受理した後、規定通りの法的手続きを落としなく進められるよう、リマインドや各種支援リソース機能を備えたシステムを提供します。

  5. 中小企業向けの費用補助

    • 中小企業が外部の調査専門家を招く際の費用を政府が補助し、企業の制度導入コストを削減します。

  6. 広報と個別コンサルティングサービスの強化

    • 特設サイトを立ち上げ、FAQ、画像付き解説カード、短尺動画、研修用マニュアルなどの各種リソースをワンストップで提供します。

 

【2026最新】台湾「労働安全衛生法」改正の重要ポイントと企業が負う法的責任

 
 

 まとめ

 

労働部は、職場いじめ防止は単に「法律の要求を満たすこと」にとどまらず、企業の持続可能な経営(ESG・サステナビリティ)とコーポレートガバナンスにおける重要な一環であると強調しています。

事業主(経営層)は、職場の社会的・心理的リスクや従業員同士のコミュニケーション課題を、ガバナンスおよびリスク管理のメカニズムに組み込むことが推奨されます。

経営トップによるコミットメントと部門横断的な連携を通じて、お互いを尊重し、信頼し合える、安全で健康的な職場文化を形成することが、結果として従業員の帰属意識を高め、企業全体の競争力を向上させることにつながります。